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2018.06.13

【<学術論文>肩こり・腰痛を防ぐ自動車運転姿勢】

公益社団法人 千葉県接骨師会

北総支部 飯嶋 無圓(嘉孝)

はじめに

20歳代の私は、自動車を運転する際、運転操作に意識が向き、身体の負担を気にする事は殆んどなく、安易に座り、その結果、頸部、上背部、上腕部、腰部が強張り、所謂、肩が張り、腰が痛む事がしばしばあったが、自動車は運転が全てで、違和感を持つ事は致し方ないものと、捉えていた。

また、私は小さい頃から、長尾流躰術という、組討、柔を師匠でもある父に師事して修行し、柔道整復師の職業発祥の源である、人の怪我を無血で治す、殺活法も学んだのである。

1970年から1980年頃まで、武術の殺活法からくる、筋矯正術という業を用い、身体の機能回復を図る技術に対し、よき理解を示してくれた医学部教授の下で、筋肉の臨床評価を研究するため、北陸金沢から東京の大学に3,4ヶ月に一度の割で自動車にて上京し、1回の走行キロは1200キロメートルを超えた。その頃の道路は、一般道が主体で、今の様に高速道路網が出来上がっておらず、出来ていたのは東名高速道路と、名神高速道路だけであった。その2本の高速道路を経由し、往路だけでも8時間かかり、高速走行の運転に慣れていない事もあり、スピード感から来る緊張と、運転操作が単調で、身体が固まる傾向があり、頸部、上背部、上腕部、腰部がバリバリに強張り、そのうち痛みも出てくる非常に辛い道中であった。最初の頃は致し方ないと思っていたが、毎回上京するたび強張りの連続で、これでは身体が持たなくなる、どうすれば身体に負担がかからず走行出来るか、運転姿勢に着目する意識を、持たざるを得ない状況に追い込まれた。因みにその頃は、スピード感を増すためか、運転目線を低く持ってゆく傾向があり、そのため、背もたれを寝かせて走る事が多く、今思えば、運転姿勢上は好ましくない状態であった。

10年程かけて、腕の位置はどうすべきか、ハンドルのどこを持つか、身体の位置をどう置くべきか、シート位置、背もたれの角度、姿勢の作り方等、身体にかかる負担をどうすれば少なくできるか、試行錯誤を繰り返し、第1次の研究結果による、運転姿勢の形にたどり着いた。

座るという事が余りにも身近なためか、その頃、運転による身体の侵襲について、考えるという着目はなく、勿論、参考となるものもなく、一つ一つ実践し積み上げて、得られた結果から、これ以上改良する事はなく、もうこれでいいと思い込んでしまったのである。

それから12年程、運転姿勢を気にせず、考案した姿勢で運転していたが、居住地が現在の千葉に変り、1993年頃、自動車で逆に、千葉から地方金沢に里帰りをした時、良好である筈の運転姿勢に、違和感を覚え、姿勢位置が気になり、調整を始め第2次の研究再開となる。この時の研究で、新たに気付かされた事柄が、着席姿勢の改良に大きく寄与する結果となり、やはりこれで良いと確信的に思い込む事が、如何にまずい事かと、改めて考えさせられた。いつも、これでいいか、もっと良い方法はないかと、頭脳を柔軟に、前進的思考を持ち続ける事が、如何に大切か、実感として再認識する事が出来た。

第2次の研究結果を踏まえ、それから運転姿勢研究のため、日常の運転の際は勿論、年に何回かは、運転姿勢研究のための遠出を実施し、運転中はいつも、姿勢を意識する毎日となる。

身体の不定愁訴を取り除く前に、余計な定愁訴を作らない様にする事が、研究命題である。

 

方法

第一次の研究

自家用自動車にて、一般道、高速道路を走行、頸部や上背部、腰部の強張りから、逃れるための要因をチェック、運転姿勢考案へ。

第二次の研究

自家用自動車にて、一般道、高速道路を走行、第一次の研究から、得ている運転姿勢を観察し、頸部や上背部、腰部への違和感に対し、負荷を弱める微調整に主眼を置く。

第二次研究以降、継続的に現在まで

日常、自動車に乗る時が、全て研究の時間となるため、通常は、自家用自動車が対象となる。最初の乗り込みの時に、シートの位置調整を施し、ほぼ毎日走行、考案した運転姿勢を、細かく観察する。漫然と座る事はなく、毎回意識的に運転姿勢をとり、時々、シート位置の微調整を行う。軽自動車も、使用対象としている。また、近年は、飛行機にて移動、現地にてレンタカーを使用し、長時間走行や、長距離の中で、頻繁に乗降を繰り返すコースも選び、実施する。身体機能は勿論であるが、その時々で、シート位置、運転位置、運転姿勢も生きているという事を実感させられたのである。

 

結果

第一次の研究結果

背もたれが寝ていると、頭部を前に起こす動作が、頭頸部に働き、肩甲骨が離れ、躯幹部保持のため脊柱周囲の筋が緊張し、筋の負荷反応が極度に早まり、強張り感が出る。よって、背もたれは極力起こして運転ポジションを作り込む。また腰部は、前弯が望ましい。後弯を避けるため、臀部をシート奥に深く腰掛け、運転姿勢を考案する。

第二次の研究結果

従来の背もたれの角度では、腰部の姿勢維持に不具合を感じ、角度をより起こす方向に修正する。躯幹部が背もたれに寄りかかると、腰部に負担を感じる事が強く意識され、寄りかからず腰部前弯を決めてとった姿勢に、背もたれを添わせ密着させる方が、負担が来ない。その分シートが少し前方に移動する。この方法で走行すると、腰部にかかる負担を意識しなくなる。ただ、腰部が少しずつ後弯し、臀部が前方に滑って姿勢が崩れて来る。これが原因で運転姿勢を乱し、頸部、上背部、腰部に、強張りをもたらす元となっている。そして、運転の積み重ねが堆積負荷硬結(固定的硬さ)を作り、各部位の緊張硬結、疼痛、鈍痛、運動機能障害を発症する。

第二次研究以降、継続的に現在までの結果

運転時の問題点は、走行中の外部変動状況に敏感に反応し、自覚なしに背を丸め、動物的習性ともいえる身構える姿勢をとり、躯幹部をハンドルに引き寄せ、背もたれから離れる事である。運転は、座位姿勢が長くなる事が多いため、躯幹部の頻繁な背もたれからの離反は、脊柱周囲の筋が負荷緊張を受け、前傾姿勢保持に働き、固定化する方向に動く。これが躯幹への負担を大きくし、張りを感じる要素を作る。これらを踏まえ、より良い運転姿勢を考案した。

 

考察

身体の力を抜いてリラックス、という安易な考え方を改め、長時間の座位に耐えられる姿勢を作り出す、という考え方を持つ必要がある。姿勢の不備による小さな負荷は、自覚がなく、何十年も積み重なり堆積負荷硬結となり、脊柱周囲の筋に硬さ、強張り、締め付け感、圧迫感、疼痛等の自覚症状をもたらし、不快な不定愁訴を作り、日常生活の活動に、大きな影響を及ぼす原因を作る。運転姿勢の不備は、これらの愁訴を大きくする。

研究結果から、身体への負荷影響を、極力少なくさせる運転姿勢を考案し、走行中、その姿勢を保持して運転すると、頸部、上背部、腰部への負荷が、極端に少なくなる事が明らかとなる。繰り返し何度も実施するが、長距離走行でも、今まで頸部や腰部に起きた強張りや疼痛が、全くと言ってよい程感じなくなり、創意工夫を重ね考案した運転姿勢は、身体の負担軽減に、格段の効果を上げたと考える。

ただ逃れられない問題点にぶつかる。結果の所で触れたが、背を丸めて前傾姿勢になる事と、腰部の後弯が起きる事である。この二つは、それぞれ単独で動く事もあれば、連動する事もあり、現時点では、防ぐ事が出来ない事柄と捉えている。

上半身の動作が主体の作業は、どうしても前傾姿勢となり、頭部と頸部、上背部を支える筋肉の負担が、緊張と強張りを起し、継続時間が長くなれば、筋肉はより固くなる。

先祖の四足歩行動時代の運動習性が、身体に残っていて、無意識の行動は、反射的に背部から腰部を、丸くかがめる姿勢をとる。素早い動きの時程、瞬発力を必要とするため、かがむ姿勢が強くなる。この様な習性、動きが反映し、未だに逃れられないと考えている。また精神的に緊張すると、同様に肩甲骨が背もたれから離れる傾向がある。二足歩行の脊柱起立姿勢は、腰部が前弯でなければ、バランスが取れない。起立姿勢は、今後も進化してゆく途上で、動きは、未だ四足行動時代の習性が強く残る、混合状態と受け止める方が、納得できるかと思われる。上肢のハンドル動作は、走行時のあらゆる緩急の変化に、自在に対応する事が求められる。変化に即応するには、腕の瞬発が大切であり、それには、肘関節が軽度屈曲位でなければ、腕に力が入らない。腕に強い力が入る、その人固有の肘関節の角度がある。肘関節を軽度屈曲位に保持するには、角度を決め、シートを前方に進め、寄りかからなくても姿勢が保てる様、背もたれも、躯幹部の姿勢に合わせ、肩甲骨下角を密着させる様に起す。運転操作をする上肢も、肩甲骨下角の密着は、作業起点として安定的に保持できる。同時に躯幹部の安定も、確保できる。

研究中、何時も問題となる腰部後弯は、運転操作中に必ず起こる現象で、少しずつ臀部坐骨が前方に滑り出し、腰部前弯保持の観点からは、防ぐ事が困難な動きで、躯幹部の前傾と連動する事が非常に多い。腰部後弯が、通常の作業姿勢であり、腰部の前弯曲は、その動きに相反する形状となる事から、保持が難しい。気が付くと後弯になっており、運転途中、何度も臀部坐骨をシート角に突き立て、腰部前弯に修正し、腰部の負担を少なくする様心掛ける。臀部は現状、常に前方に出ようとしてずれて来るものと受け止める方が現実的と考える。腰部前弯が崩れた時から、脊柱保持機構にスイッチが入り、筋の保持活動が働き出す。

安定姿勢を取らせるための、様々な工夫を凝らすこれらの対処方法は、特に頸部、腰部にかかる負担を軽減する。即ち、姿勢を支え保持する担当筋を、極力働かせない事に尽きる。筋肉の負荷で、一番自覚しない動きは、少し収縮を働かせた状態で、筋運動のストロークを持たず、身体を支え、保持する等尺性収縮で、継続時間が長くなると、身体を辛く感じさせる事に、繋がっていく。

腰部後弯と躯幹部前傾による負荷は、走行途中、乗降の繰り返しが多ければ、負荷蓄積が少なく、運転姿勢をリセットさせる事に大いに役立ち、姿勢意識への配慮を頻繁に出来る、大きなメリットとなると捉えている。

座る事の注意点として、運転姿勢を作り、腰部前弯の形を意識的に残し、脊柱周囲の筋の緊張を解き、脱力する。具体的には、臀部坐骨結節から前方の坐骨枝、大腿上部で座る事が大切だと考える。そうする事で、仙骨部の前傾が自然に出来る事になる。

 

まとめ

中間報告として、これまでの結果から、現段階での、考案した運転姿勢のまとめを、記載する。

運転時の着席姿勢は、

1、先ず、運転席に取り敢えず座り、アクセル、ブレーキペダルが、余裕を持って踏み込める様に、前後のシート位置調整を行う。

2、次に、座りの調整をする。着席は、座席に臀部で座らず、坐骨枝と大腿上部で座る意識で、臀部(正確には坐骨結節)を背もたれの下端部から、シート角に向かい滑らせ、角奥に差し込む。(図1)

 

1-3

3、腰部の姿勢は、仙骨部が前方に傾く位置で、恥骨結合部がシートに近づく様に、腰部前弯を作り、坐骨枝と大腿上部で座る。(図2)

 

1-2

4、膝関節軽度屈曲位で、アクセル、ブレーキペダルが、余裕を持って踏み込める様に、再度、前後のシート位置調整を行う。

5、ハンドルを持つ上肢は、肘関節軽度屈曲位で、手は、ハンドルの最上端をしっかり握れる事。

6、5の状態を保持し、両肩甲骨下角を、背もたれがしっかり支える様に、背もたれを起こしながら、完全に密着させる。(躯幹部を預けるというより、その姿勢に背もたれを添わせ、密着させる)

7、腰部前弯を決めた姿勢で、背筋を伸ばし、脊柱周囲の筋緊張を解き、脱力する。

8、肩甲骨を、背もたれから離す事なく、運転操作が出来る事。(脊柱起立筋を極力活躍させない)

意識して腰部前弯を保持する事が、大きなポイント、決め手と考える。

 

おわりに

何事につけ、人が生きるという事は、少なからず身を削って生きているという事で、避けようのない事実である。精神的、肉体的、様々な負荷影響の中で、少し努力する事で、一つでも負担を軽くする事は、将来に向けて大切な事と考える。

身体に極力負担のかからない、運転姿勢を考案したが、自動車に乗る度に起きる、躯幹部の前傾と腰部後弯は、現時点では克服できない事柄で、常に修正する意識を持ち、自動車を運転する際は、身体に不定愁訴を作らず、健康を損ねない様にする事が、肝要かと思われる。少しでも快適な日々を過ごす一助となればと、願うものである。

※当サイトで紹介している効果・効能については個人差のあるものであり、必ずしもそれを保証するものではありません。

店舗情報

【店名】
長尾施術所(旧 槇之内接骨院)
【電話番号】
050-5851-5863
【住所】
〒270-1402 千葉県白井市平塚364
【営業時間】
受付時間は設けていません。ご予約次第で柔軟に対応しますので、お気軽にお問い合わせください。
【定休日】
不定休
【駐車スペース】
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